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エンジニアリングとマネジメント

Engineering Manager Competency Matrix を作った(エンジニアリングマネジメントトライアングルの考察:破)

Engineering Manager Competency Matrix というものを作りました。 まだ作成途中ですが、現時点で公開することにします。

Engineering Manager Competency Matrix とは何か

Engineering Manager Competency Matrix(以下、EMコンピテンシーマトリクス)エンジニアリングマネージャーの行動特性をマトリクスにまとめたもので、Google Spreadsheet で公開しています。 EMコンピテンシーマトリクスを用いることで、エンジニアリングマネージャーにとって望ましい行動が明らかになります。

コンピテンシーとは何か

書籍『コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版)』によれば、コンピテンシーとは、「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」と定義されています。 同書によると、コンピテンシーの特性は次の5つのタイプに分かれます。

  1. 動因: ある個人が行動を起こす際に常に考慮し、願望する、さまざまな要因。
  2. 特性: 身体的特徴、あるいはさまざまな状況や情報に対する一貫した反応。
  3. 自己イメージ: 個人の態度、価値観、自我像。
  4. 知識: 特定の内容領域で個人が保持する情報。
  5. スキル: 身体的、心理的タスクを遂行する能力。

動因・特性・自己イメージに関わるコンピテンシーが、知識やスキルに基づく行動の引き金になるでしょう。 これらの特性によって、成果が生まれる──原因・結果のフローになる──のです。 また、コンピテンシーには必ず「意図」が含まれており、意図を伴わない行動はコンピテンシーではありません。EMコンピテンシーマトリクスも、この定義を根底にして構築しました。

マトリクスの構成

EMコンピテンシーマトリクスは、エンジニアリングマネージャーの一般的なコンピテンシーを定義しました。 さらに、これらのコンピテンシーを次に挙げる3つのカテゴリに分類します。

  • Person based: 個人の人間性などによる行動特性。動因、特性、自己イメージに該当する。
  • Skill based: エンジニアリングマネージャーのスキルベースによる行動特性。スキル、知識に該当する。
  • Culture based: 企業文化に適したコンピテンシー。

Person based

書籍『コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版)』によると、エンジニアのような専門職の管理者を一般的な管理者と比べても、コンピテンシーに大きな差はなかったようです。 そのため、EMコンピテンシーマトリクスでは、同書から「管理者」のモデルを引用しました。

Skill based

エンジニアリングマネージャーのスキルを考える土台として、エンジニアリングマネジメントトライアングルを使用しました。 トライアングルの各領域をスキルという視点でさらにブレイクダウンして、各項目を作成しました。

Culture based

企業文化に適したコンピテンシーは、企業ごとに異なります。 したがって、マトリクスでは未定義の項目としました。 自身の企業に適したコンピテンシーを読者自身で定義してみてください。

レベルの定義

コンピテンシーは、1から6までレベルを定義しました。 レベルの定義には、「行動の強度と徹底さ」「インパクトの範囲」「将来のための行動をする時間軸」という測定尺度を用いています。 たとえば、レベル1はアソシエイトエンジニアリングマネージャー。レベル6は、エグゼクティブエンジニアリングマネージャーというように、レベル6に近づくにほど強い行動特性を発揮します。

EMコンピテンシーマトリクスを価値あるものにしていきたい

コンピテンシーの定義は、本来は行動結果面接(BEI)などによって行われます。 しかしながら、私一人で多くのエンジニアリングマネージャーにインタビューすることは困難でした。 そのため、EMコンピテンシーマトリクスはまだまだ未成熟な状態です。

ぜひ、周りのエンジニアリングマネージャーのコンピテンシーを元に、EMコンピテンシーマトリクス作成を手伝っていただけると嬉しい限りです。

元データは GitHub で管理しています。Contribution については README を参照ください。 github.com

GitHub の Json を Google Spreadsheet に取り込むと、冒頭にもリンクしていたマトリクスになります。(Json は GAS で取り込めるようしています) docs.google.com

謝辞

EMコンピテンシーマトリクスの作成にあたり、以下2つの資料を参考にさせていただきました。 この場をお借りして、感謝申し上げます。

Circle CI 社のコンピテンシーマトリクス

circleci.com

エンジニアリングコンピテンシーマトリクスとして有名な記事です。 エンジニアリング全般から、企業文化も反映されています。 EMコンピテンシーマトリクスは、エンジニアリングマネージャーにフォーカスしたかったため、同社のマトリクスのレイアウトをベースにして軸を改訂して作成しました。

コンピテンシー・マネジメントの展開(完訳版)

コンピテンシーについて説いた非常に学びがある書籍です。 著者のスペンサー氏は、次のステップで数多くの職務を分析していました。

  1. 業績考課制の尺度を定義する
  2. 尺度ごとのサンプルを選ぶ
  3. データを収集する(行動結果面接、パネル、360°評価、観察など)
  4. データを分析し、コンピテンシーモデルを作る
  5. コンピテンシー・モデルの妥当性を検証する
  6. コンピテンシー・モデルの適用を準備する

この分析を、数多くの被験者に対して実施しています。 EMコンピテンシーマトリクスの Person based は、すべて同書からの出典です*1

*1:生産性出版社から引用許可をいただいています